5時からヒロイン
「凄い混みようね」
「そうだな」

初めから買う店は決めていたので、迷わずスムーズに行ける。
クッキーもいいけれど、秘書課のみんなはおせんべいが好きなので、おせんべいの詰め合わせを買うことにしていた。米菓なら5千円もだせば、ボリュームのある詰め合わせが買える。

「これでいいかな?」

ショーケースには秋らしい栗や紅葉の形をしたおせんべいがあって、かわいらしい。大きな一枚せんべいもいいけれど、やっぱり小袋分けで色々な種類があったほうがいい。
私が選んだのは、そんなおかきの詰め合わせ。
そして忘れてはいけない、取締役たちの分。これも重要だ。

「次はチョコレート」
「あれが美味しいぞ」
「どれ?」

社長が推薦してくれたのは、一際高級そうな店舗だった。黒を基調としてしていて、チョコレートが映える照明が印象的な店。その店だけ窓ガラスで囲われた店構えになっていて、入るのも躊躇してしまうほどだ。

「食べたことがあるんですか?」
「ああ、贈り物をする前の味見程度にな」

良かった。私のお菓子の山のピーナツチョコレートをお裾分けしなくて。庶民的でとても美味しいけれど、舌の肥えた社長には物足りなかっただろう。
高級な肉を売っているようなショーケースに、一口サイズのチョコレートが宝石のように並べられている。一粒がびっくりするような値段で、チョコを見ながら固まった。
種類が多くてウロウロとするばかりで、なかなか決められない。オーソドックスなチョコレートもいいけれど、ちょっと変わった味もいい。

「迷っているんだったら、詰め合わせにしてしまったらどうだ?」
「そうですね」

どのチョコレートもびっくりするような値段だったけど、この中にいると、安く感じてしまうのは、甘くビターな香りが、感覚を麻痺させているからだろう。
ギフトコーナーへ行き、詰め合わせを選んでラッピングをしてもらう。

「すごく高いですね」
「ああ、だから贈り物には最適なんだ。チョコレート一つにあの値段は高くて買えないが、貰うと嬉しい物のひとつだろうから」
「なるほど、それはそうですね。私も自分では買わないかも」
「俺だって買わない」
「そうなの?」
「そうだよ」

じゃあ、今度は私のピーナツチョコレートを御裾分けしてあげよう。

「いつもチョコを食べていただろう」
「え!? 知ってるの?」
「食べたあとは、沙耶からチョコの匂いがしたからな」
「……すみません」

しっかりバレていた。
お待たせいたしましたと言って、店員さんがラッピングしたチョコレートを持って来てくれたが、一つだけ社長に袋を渡す。

「いつの間に買っていたんですか?」
「沙耶が買っている時だよ」

社長もこの香りにつられて買ってしまったのだろう。



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