5時からヒロイン
新入社員として初出勤した時のように、朝から緊張していた。
もちろん社長との秘密の恋愛ということもあるけれど、こんなに長い間休んだことが無かったから、どんな顔をして出勤したらいいのか、分からず不安だった。
朝礼は各課で毎朝行われているが、秘書課ではやったり、やらなかったりと適当だった。
でも、今日は私が病休から復帰した初日の為、挨拶を兼ねて朝礼が行われた。

「本当にご迷惑とご心配をお掛けしました。みなさんからお見舞いのお気遣いを頂いて、ありがとうございました。これからは、体調管理に気を付けながら業務にあたりますので、どうぞよろしくお願いします」
「本当に回復してよかったよ。顔色も良くなったし、体調もよさそうだ」

部長は本当に心配をしてくれていた。男だから見舞いは遠慮するよと、連絡をもらったが、ほぼ毎日のようにラインで様子を聞いてくれていた。
頼りない上司だと思っていたところもあったけど、仕事が出来て頼りがいがあるだけが上司じゃない。特に女性が多い職場では、仕事より身体とか、その人の変化を心配しれくれる人間味のある上司がいい。

「部長、ご心配とご迷惑をおかけしました」
「いいんだよ、無理せずに徐々に通常業務に戻して言ってくれたらいいから」
「ありがとうございます。それと、これ秘書課で食べてください。おせんべいですけど」
「気を使わなくていいのに、でもありがたく頂くよ。おやつに頂こうとしようか」
「そうしてください」

部長との挨拶をすませると、私のデスクの周りに女子たちが集まって来た。

「回復して良かったですね」
「みんなありがとう。可愛いパジャマまで頂いちゃって、着心地もいいし、最高よ」
「ほんとですか? 良かった」

ねえ、とみんなで顔を合わせて頷く。三井さん、佐藤さん、長嶋さん、並木さんに神原さん。みんな心配してくれてなんだかうれしい。
一番年上でいつも秘書課にいないから、なんとなく疎外感もあったし、先輩だから、目の上のたん瘤くらいに思っているのだろうと、頭の片隅で思っていたけど、自分が思っているよりも慕ってくれているんだと、療養中に感じていた。
まめに連絡をして様子を窺ってくれたことも嬉しかった。






< 71 / 147 >

この作品をシェア

pagetop