5時からヒロイン
「イチゴ柄大好きなの。本当に嬉しかったわ」
「良かったねえ~」

とみんなが言う。

「水越さん、なんか身長が……あ! パンプス新調しましたね!!」

並木さんに目ざとく見つけられた。彼女もルブタン愛好家で、いつもネットを見ては買いたいと言っていたのだ。
それに、いつも私を見上げていたのに、見る視線が低くなっているのだから、分かって当たり前だ。

「さすがにハイヒールはもう履けないわ。足首がなんとなく痛いし、無理しなくてもかわいいルブタンはあるしね。修理もしないで新しいのを買ったの」

正確には買ってもらったんだけど。

「奮発しましたね」
「捻挫に続き入院でしょう? 気が滅入ってしょうがなかったの。厄落としの意味も込めて思いきっちゃったわ」
「占いって当たるんですね」

占い雑誌を買っていた、並木さんがしみじみ言った。確かにその通りだけど、もしかしたら占いの言葉を意識しすぎて、知らず知らずに、占い通りの行動を取っていたのかもしれない。

「怪我に病気ね。やっぱり厄払いに行かなくちゃだめかもね」
「そうした方がいいですよ」

真剣な顔の並木さんは、本当に占いを信じて心配していた。逆に深入りしなければいいけどと、恋愛の占いだけは外れたことを、言えない私は思った。
いや、そうでもないかも。確か問題が解決するとかなんとか書いてあったような気がする。そうだ、私の大きな問題は解決したのだ。
やっぱり占いは信じることにする。

「あとね、みんなにはこれを。本当にご迷惑をおかけしました」

紙袋からラッピングされたチョコレートを、一人ずつ渡す。

「このチョコレート! 一度食べて見たかったんですよ、でも高くて」

うん、うん、と頷く秘書達。社長の言ったことは当たっていた。すごく喜んでくれているみたいで、チョコレートにして良かった。

「ねえ、食べる?」
「一個だけたべちゃう?」
「コーヒーを淹れようか」
「僕にも一つくれないかなぁ」

チョコレートを渡したとたんに、みんなはチョコレートにくぎ付けで、私の周りから去って行く。
さっきまで感激していたのは嘘だったのか。チョコレートを前に私と言う存在は完敗だった。

「食事はどうされているんですか?」
「神原さん」

やっぱり彼女だけはいてくれた。

「今は便利なレトルトがあるのよ」
「そうですね、具合が悪いときは楽したほうがいいですよ」
「そ、そうね」

社長が作ってくれていたなんて言えるわけがない。そこで私は改めて気づく。
秘密の恋が始まったのだと——。


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