5時からヒロイン
「とても素敵ですよ」
「試着してもいいですか?」
「もちろんでございます」

試着室に案内され着替えると、くるりと一回り。スカートがふわりと広がってとても可愛い。こういうスカートを履くと、なんでくるりと回ってしまうのだろうか。自分の条件反射に笑ってしまう。
試着室を出ると、女性が待っていて着用したサイズ感を見てくれる。

「すごくかわいいです」
「お客様はスラリとなさっているから、とてもお似合いですよ」

決して背が高いと言わない所がプロね。
まだかけてあるワンピースを全部試着したいけど、このワンピースより気に入ったデザインはない感じ。やっぱり一目惚れって大切。

「とても似合っているよ」
「社……そう?」

社長と呼んでもいいものかと、ちらりと女性を見た。訳アリな男女関係も見てきただろうし、見ざる言わざる聞かざるが店側のマナーだろうけど、少しためらってしまった。
れっきとした恋人同士なんだから、後ろめたさを感じることはないのに。

「これにしようかな?」
「いいよ」

脱いだスーツをスーツケースに入れてもらって店を出る。社長がすっと肘を曲げてくれ、私は腕を組む。映画でしか見たことが無いエスコート。
そこから車に乗り込むと、まだ行くところがあると言って、その場所に向かった。
店は美容院だった。

「今度は美容院?」
「そうだよ」

確かに、ドレスアップした姿に、自分で結い上げた髪型は似合わない。社長の行きつけという美容院に入って、セットをしてもらうことになった。
いつもアップしている髪は下ろしてカールをする。鏡に映った私はなんて綺麗なんだろう。

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだあれ?」
「水越沙耶、あなたです」
「ぐふふふ」

こんなヘアスタイルにしたのは初めて。結婚式に参加するときでもアップスタイルで、代わり映えのしないヘアスタイルだった。たまにはお任せで仕上げてもらうのもいいかもしれない。

「何をにやけてる?」

いつも変なところを見られてしまって、自分の間の悪さが嫌になる。

「あ、いや、べつに……」

鏡の前に立っていた私の隣に来て、社長が耳元で囁く。

「とても美しい」

そんな甘い言葉を言った後、頬にキスをする。もうこのキスだけでお腹が一杯。
ブティックといい、美容院といい、社長の行きつけに連れて行ってくれるというのは、彼女として認められているような気がして、自信に繋がるというもの。
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