5時からヒロイン
「水越さん、最新版ですよ。見ます?」
にやにやと三井さんが見せたのは、占い雑誌。また最新号を買ったんだ。そんな占いに左右されないと思っていた矢先の弥生の忠告。
「読んで、読んで」
聞かないわけにはいかないじゃないか。
「えっと、ん? おとめ座は……ちょっと今回は悪そうですよ、能天気な所が魅力のおとめ座女子ですが、深く解決しがたい問題に直面するでしょう。心がざわついて落ち着きがなくなり、仕事でもミスが目立ってしまいそう、気を引き締めて取り掛かりましょう。ですって。今までとは全く違って、少し悪いですね」
「ショック~」
少なからず気になることがあるのに、信じ始めている占いにいわれてしまったら、どうしようもない。だけど、能天気というところだけ合ってるなんて悔しい。
占いは浮かれている私に、注意を促す物と捉えて、社長に迷惑がかからないようにしなくちゃいけない。本当に気を引き締めよう。
「まあ、占いですから」
私より占いを信じている三井さんに言われても、なんの慰めにもならない。
「まあね……あ、ところで賞品の準備はどう?」
「はい、全て出揃って、卓上に置くプレートを作っている所です」
園遊会の担当は広報部なのだが、役員たちが出す賞品の準備は秘書課の役割だった。当日に賞品棚が設置され、そこに置くことになっている。
秘書たちは一台のパソコンの前で、ポップを作っていた。
「こんなの広報部の役割ですよね?」
「そうよね」
優勝、準優勝とイラストをレイアウトして、A4の紙に印刷すればいいだけのことなのに、広報課は秘書課に丸投げしている。滅多に使わない機能は、一年経つと忘れてしまう。あれやこれやと言いながら、なんとか制作するのも骨が折れる作業だ。
秘書課だって色々とやることがあるのだ。
「みんな、今年はのんびり宴会を楽しむことは出来なさそうだぞ」
「え~!! どういうことですか? 部長」
会議に出席していた部長が戻ってくると、疲れた様子で言った。
楽しみにしていた園遊会。秘書課の息抜きが無くなってしまうなんて、社長から聞いてない。
「ついさっきの会議で聞いたんだが、海外からの来賓があるそうだ」
「初めてじゃないですか?」
「そうなんだ。新薬を共同開発するアメリカの会社の役員が、急遽、来日することになったんだ。研究員も来日予定で、園遊会の日と日程が重なって、ちょうどいい接待になるってわけだ」
日本の研究開発力は海外に比べて弱いと言われている。ファイブスターも開発には力を入れているが、新薬を開発するには莫大な研究費がかかる。
社長を悩ます研究費と開発能力。そこを強化することはファイブスターの目指すところでもあった。
社長は私にそんなことを言っていなかった。信用されていないのだろうか。
終わりがある恋と感じてしまったことより、ショックなのは秘書としてのプライドだ。
「水越さん、中止ですよ、秘書課の飲み会」
「そうね、残念。あ、でもゲストがお帰りになったら大丈夫じゃない?」
「最後までいなければ。ですけどね。最後の方は社員のかくし芸的なプログラムがあるじゃないですか。社長や役員が勧めないとも限りませんからね」
「そうね……」
楽しみだった園遊会。後輩たちとのおしゃべりは楽しかったのに、それも出来ないのか。
社長と過ごす時間は別格だけど、同性と過ごす時間もまた楽しいのに、なんでこうもうまく行かないのだろうか。