5時からヒロイン
「チャリティーパーティーだが」
「動物愛護のチャリティーパーティーですね」
「行かなくてはまずいよな」

弱音など言ったことがない社長が珍しくこぼすなんて。毎年参加しているパーティーなのに、愚痴を言うのだから、よっぽど嫌なのだろう。

「いつも憂鬱そうな顔をしていますものね」

毎年開催される動物愛護のチャリティーパーティー。薬品会社は何かと叩かれることが多いために、寄付と援助は惜しまない。
そこに出席する社長は時に、冷たい視線を浴びせられることもある。私は同行しないために、パーティーでの出来事は全く分からないけど、出勤してくる社長の顔を見るだけで、どうだったのか手に取るように分かった。

「嫌なことが先で良かったじゃないですか、その後には園遊会ですから」
「そうだが、今年はただ楽しむわけにはいかないだろう?」
「社長が楽しまなくてどうするのですか? ゲストを接待するには、まずご自分が楽しまれないと」
「さすが秘書だな、良いことをいう」
「そう? じゃ、ご褒美」

そう言って、目を閉じて顔を少し上に向ける。社長は意図が分かったようで、ちゅっとキスをしてくれた。何度でも強請ってしまうのは、私だけの社長でいて欲しいからかもしれない。

「パーティーの日、マンションで待っててくれないか」
「分かりました」

パーティーは金曜日に開催される。お泊りも全然なかったから、社長も人恋しい、いや、私が恋しいのだ。
何も出来ない私だけど、疲れて帰って来る社長に最高の癒しを準備しておこう。
人知れず嫌なこともあったんだなと、そんな社長を身近に感じたけど、そのはけ口は今まではどうしていたのだろうかと、そこが気になる。
今は私に話してくれるけど、過去は分からない。

「もう、また過ぎたことを考えてる」

最近、仕事が上の空になっている。仕事に夢中になっていた自分はどこへ行ったのだろうか。

「占い通りになったらどうしよう」

三井さんじゃないけど、あまりに当たる占いに、のめり込みそうで怖い。
仕事も公私混同はしていないと思っていたけど、やっぱりそこまで完璧には出来ない。それを出来る人は、人造人間だけだ。
社長は温かく見守ってくれているけど、本当のところはどう思ってるんだろう。

「パーティーの準備と確認をしなくちゃ」

パーティーに園遊会。やらなくちゃいけないことは山ほどある。恋にうつつを抜かして、悩んでいる場合じゃない。

「切り替え切り替え」

仕事に集中していれば、余計なことは考えずにすむし、夜だって疲れていればすぐに眠れる。
仕事でもプライベートでも社長に失望されたくない。

「よし、がんばろう」

恋をパワーに変えて頑張るのだ。
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