5時からヒロイン
会社から近い場所のネイルサロンに入ると、いつも担当してくれているスタッフさんが出迎えてくれた。
ここは、個室形式でネイルをしてくれるので、とてもリラックス出来てお気に入り。

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
「今日はお願いします。あの、少し時間がないので、急いでもらうことは出来ます?」
「がんばります」

いつもは出してくれるお茶を飲みながら、だらだらと話をして長居をしてしまう私だが、今日は時間がない。
座るとすぐにあることを言われた。

「なんか、雰囲気が変わりました? なんていうか、輝いて見えますよ?」

そうでしょう? そうだと思います。でも謙遜はしなくちゃ。

「いつもと変わりませんよ~」
「いいえ、長いお付き合いですから言わせていただきますが、恋してらっしゃるような……そんな輝きです」
「こほっ……実は……彼氏ができまして……」
「やっぱり! ますますお綺麗ですよ。今日は薬指にラインストーンでもつけます?」

にやりと笑うスタッフ。それに触発されてつい頷く。まったく抜け目がない。
いつもナチュラルな色にして、飾りは付けないけど今日は特別だ。

「お願いしちゃおうかな?」
「かわいくしますね」
「はい」

ネイルをしながら社長を想うひととき。いままでの高級化粧品に費やしたお金はなんだったんだろう。プラスに働いているということで納得する。
綺麗に仕上がった爪を高く掲げて見ると、婚約指輪を見ているような気分になる。

「きれい」
「ありがとうございます」

綺麗になってテンションがあがったまま、次に向かうのはデパ地下。夕方で混雑しているのは覚悟の上で向かう。
主婦の勢いに負けそうになりながらも、チーズ、フルーツ、大好きなローストビーフと買い込んでいく。
今夜は少し飲みたい気分だ。胃を悪くしてから禁酒をしていたけど、すっかり良くなったし解禁してもいい頃。
それに、なんといっても社長はタキシード姿。確かに見慣れてはいるけど、今日はまた格別。
かなり高くついたけど、料理を買い込んで社長に買ってもらったあのクルーザーで着たワンピースを着て待つつもり。

「んふふ」

また奇妙な笑いが出てしまった。周りに人がいることを忘れてはいけない。
デパ地下で買った総菜を両手に下げて、急いで社長のマンションへ帰ると、とりあえず私はお風呂に入る。

「急げ、急げ」

私の頭で考えられる、最高の夜にするためにフル稼働だ。ジャグジーのお風呂にゆっくりはいりたい気持ちを抑えて、シャワーで済ませてメイクをやり直す。髪にオイルを塗って念入りにブローをする。

「つやつや」

口コミで評価が良かったオイルを、奮発して買ったかいがあった。
時間をスマホで確認すると、パーティーは終わりを迎えた時刻だった。

「時間って経つのが早い」

三時間なんてあっという間で、仕度を整えるまで全速力で走ったように、息が切れた。
支度を済ませてしまえば、後は社長が帰って来るのを待てばいいだけ。

「お腹が空いた」

つまみとは別に、お弁当を買っていた私は、キッチンでお弁当を食べることにした。

「しまった、まだあった」

気合を入れて買ってきた料理とお酒の準備を忘れていた。

「えっと、グラスとワインクーラー……」

キッチンやキャビネットから必要な食器を出して、リビングに用意する。いろいろ見てしまって悪いと思ったけど仕方がない。

「キャンドルとお花も買っちゃった」

キャンドルだけじゃなくて、ミニブーケまで。駅の中にフラワーショップがあってつい買ってしまった。

「うん、すてき」

自己満足にふけっていると、社長から連絡が入った。



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