Moonlight memory【短篇】
――六年前
とある宇宙ステーションで、開発されたばかりの戦闘兵器が突然姿を消した。
イカロスと名づけられた、人型をした黒光りする巨大な戦闘用ロボット。青白い粒子の翼で漆黒の宙へ飛び立ったその兵器は……
すぐに軍の追跡船に発見され、発見された月の近くの宙域で激しい戦闘を繰り広げた末、その名にまつわる伝説を繰り返すかのように、翼を失い機能を停止した。
回収された機体は激しい攻撃を受けたためにボロボロで、特にコックピットは損傷が激しく、乗っていた女性パイロットの死亡が確認された。
戦闘用の新兵器とはいえ、乗っていたのは元科学者……軍事訓練を受けたパイロットではなく、追撃した戦闘機の数は二十機近く……当然といえば当然の結果。
兵器を奪って逃亡した末死んだ科学者の名は、ユーリ・ガシェット。
今、隣の助手席で無邪気な声をあげる幼い少女と同じ名前を持つ……
俺にとっては幼馴染であり、愛してやまなかった人。
共に宇宙に焦がれ夢を追った幼馴染が、何を思い女だてらに兵器開発部などに行ったのか。彼女が何を思い、あの黒い機体の開発に携わっていたか……俺は気付いていた。
気付いていたのに、止めることが出来なかった。
彼女の意思は固く変えようがないことも、その理由も、わかりすぎるくらいにわかっていたから……
ステーションの補修作業中に敵国の攻撃をうけて宙へと行方をくらませた、もう一人の幼馴染カイル。彼女の双子の弟。
彼の行方を求め、自身の半身を取り戻すべく宙へはばたこうとする彼女を、俺は止めることが出来なかった。