Moonlight memory【短篇】

 
 そもそも宙に幾つもの宇宙ステーションが点在するようになったのは、度重なる戦争や、それにより使われた様々な兵器によって、地上の環境が悪化してしまったことも理由の一つである。

 このままでは地上に人が住める環境を望めなくなる日が遠くないと危惧した大国の頂点の人間達や科学者が新たな居住空間を求めて宇宙開発に力をいれた結果である。

 そして、地上を荒廃させた兵器の影響は、何もその土や環境ばかりに現れたわけではない。

 その影響は、確実に、そこに住む人間へもその兆候を現しだしていた。

 急激な出生率の低下。自然な営みで子孫を残す力を、人間は失いつつあった。

 そのため、地球規模で取り組まれたのが種の保存計画。成人を迎えた女性は皆、自らの卵細胞を各地に置かれた保存バンクに提供することが義務付けられた。

 結婚して子供が生まれない夫婦はそこに保存した卵を人工授精して、子供を授かることが可能だ。

 登録保存された卵の母親がもしも死亡を確認された場合は、孤児バンクと呼ばれる専門のバンクに移され、そこで授精を希望する父親の出現を待つことになる。

 そこで授精された卵は、そのまま人工で補育され、誕生の時まで大切に管理される。

 孤児バンク――

 地上へ降りて尚、彼女への思いを断ち切ることが出来なかった俺は……そこに希望を見出した。

 すがるような思いで向かった、生まれ故郷から一番近い孤児バンク。

 そこに、彼女は眠っていた。

 母親の名前とともに保存されていた……卵。その小さな命の父親になることを決め、そして今……彼女は此処にいる。

 母親と同じ名前を継いだ、愛しい娘、ユーリ。

 この世に生を受け……もう四つの年を無事に越えて、彼女は俺の横で楽しげに笑っている。

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