蒼月の約束
エルミアは、半泣きの状態で恐る恐る、目の前の人物の顔を見た。
茶褐色の肌に、短く切ったサラサラの銀色の髪と、鋭く尖った上向きの耳。
そして見開かれたエメラルドグリーンの大きな瞳。
身長は、エルミアより高いが、顔はまだ幼い。
「大丈夫だから」
少年はそう言って、手を離した。
しかし、その瞬間限界に来ていたエルミアの足がガクッと折れた。
素早い動きで、エルミアを支えた少年は、腰につけたポケットから、洋ナシのような果物を取り出して、エルミアに差し出した。
「ほら、これ食べて」
エルミアは、自分一人では立っていられないほど疲れ切っていたのと、お腹が空いていたことで判断力が鈍り、見知らぬエルフからの差し入れを素直に受け取り口に運んだ。
見た目から想像できない甘酸っぱいイチゴのような味がした。
少し体が温かくなり、不思議と全身の震えも収まった。
「あなたは誰?ここで何してるの?」
果物の芯まで食べられることに驚きながら、エルミアは聞いた。
「君と同じ理由」
彼の目は、階段の頂上に向けられていた。
その瞬間、エルミアは嫌な予感がした。
「もしかして、あなた…」
西の女王の手先、と言おうとした瞬間、少年が首を振った。
「僕は、君の敵じゃない」
そして、階段を上り始めた。
エルミアも慌てて後に続く。
「あと少しで、精霊の書が手に入るよ」
気持ちを奮い立たせるためか、一生懸命、階段を上っているエルミアに聞こえるように少年は言った。
少年がくれた不思議な果物のおかげで、体力が回復したエルミアだったが、またもや果てしなく続く階段のせいで、どんどん気力もスピードも落ちていく。
そして、湿気の多い空気に支配されているせいか、階段の苔もどんどん増え、エルミアは滑られないようにと気を付けなれてばならなかった。
目の前の少年は、重力を感じさせないほど身軽に、段差を一つ飛ばしでトントンとのぼっていく。
疲れなど、彼の中には存在しないようだ。
「…エルフはずるい」
そう言葉にしたいのに、エルミアの口先から出たのはぜーぜーという辛そうな呼吸だけだった。