蒼月の約束

エルフの三人を連れて来なくて正解だと思ったのは、ドワーフの村に着いた時だった。

前回同様、不審な目を向けるドワーフたちだが、エルミアの身長がさほど高くないことや、黄色人種であること、そして黒い髪をしていることで、攻撃的になることはなかった。


しかし、アゥストリの家に向かう道中には、「エルフじゃないよな?」と確認してくるドワーフも何人かいた。


木製のドアをノックすると、アゥストリそっくりの奥さんが招き入れてくれた。

「今日は、お一人?」

エルミアの背後を鋭く観察しながら、奥さんは言った。

「はい、一人です。アゥストリはいますか?」

エルミアの返答に安心した奥さんは、前と同じ切り株のテーブルにエルミアを案内したあとすぐにアゥストリを呼びに行った。


アゥストリは作業の真っ最中だったのか、大きな革の手袋にところどころ油で汚れたエプロン姿で出てきた。

「どうした?エルフは一緒じゃないのか」

奥さんと全く同じ反応をして、アゥストリは椅子に座った。

「うん。聞きたいことがあって」

「どうした?」

持っていたハンマーをテーブルに置く。

「アゥストリは予言の内容を知ってるでしょ?」

エルミアは膝に置いた手を握りながら言った。

「ああ。確か…奇怪な服を着、言葉を話す者は、この世界を救うだろう。だったけな」

必死に思い出そうと顔をしかめている。

「でも、次の蒼月には、私は元の世界に帰ることになるの」

「なんだと?」

アゥストリが目を向けた。

「王子はなんて言ってんだ?」

手袋を外そうと格闘しながらアゥストリは聞いた。

「こっちに来た時に、必ず私を帰すって約束してくれた。
だから、蒼月が来るまでは、王子に協力していたんだけど。
ほとんど手がかりがないまま、もうすぐ帰る日になりそうなの」


エルミアは一度間を置いてから、付け加えた。

「これでいいのかなあ…って思って」

「お前は帰りたいんじゃないのか?元の世界に」

アゥストリは、良く分からないと、腕を組んだ。

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