蒼月の約束
「帰りたいよ。でも、まだ何も役に立ててないって思って。王子は、もう私には頼りたくないみたいなんだけどさ…」
「精霊の書は見つけ出したと思ったんだが」
テーブルに突っ伏し、エルミアはため息をついた。
「見つけたけどー」
「それで十分じゃないか」
他に何が問題なんだと、アゥストリが不思議に思っているのが手に取るように分かる。
エルミアも自分の気持ちがよく分からなかった。
家族に会えるのならば会いたい。
元の世界に帰りたくないなんて言ったらウソになる。
でももっと、私に出来ることをしてから、王子の助けになってから、帰りたいと思ってしまうのは矛盾しているだろうか。
しばらく沈黙のあと、エルミアは口を開いた。
「この前、また予言を聞いたの」
「ほう」
アゥストリが興味あり気に身を乗りだした。
「でも、なぜか聞こえづらくなってて、聞き取れたのが、海ってヒントだけ」
唯一の頼みの綱である予言でさえも聞こえなくなりつつあるのが、エルミアの悩みの種でもあった。
「海か…。広いな」
リーシャと同じような反応を示すアゥストリに、エルミアは言った。
「そこに、水の精霊の召喚方法が書かれたものがあるんだって。精霊の書には、確か…」
ナターシャがしつこい位暗唱していた言葉を、思い出そうと必死に脳を回転させる。
「海の奥のずっと底。その先にある虹鱗。だったけな」
「虹の鱗…?」
アゥストリの中で何かが引っかかったようだ。