蒼月の約束
いきなり席を立つと、足音を響かせて出て行ったが、すぐに鍵のついた古い本を持って戻って来た。
「その本…」
首にかけてある鍵を使って、本を開きながらアゥストリは言った。
「これは元々親父のものでな。予言のことがこと細かく記してある」
そしてまた今にも破れそうなページをゆっくりとめくり、目指している箇所を探し始めた。
「親父は、予言の受け取り手、つまりレシーバーになる前は、この世界の精霊について調べていた時期があったんだ。もしかしたら…」
そこで手が止まった。
「やはりあったぞ。〈プラネット・オーシャン〉。
その海の中にある滝つぼの奥底に、人魚たちの眠る巣がある。
そこには、また別の王国〈竜宮城〉が存在している。
ピンク潮の日に誕生した人魚は、虹色の鱗をつけて生まれてくると言われている」
「それだ!」
エルミアは勢いよく立ち上がった。
「つまり滝つぼの底にいる人魚が持ってるってことね!」
喜々として言うエルミアに、アゥストリは顔を上げて言った。
「喜ぶのはまだ早い。
そこへ行くには、何かしらの手段が必要だ。
普通の者は立ち入れない、それこそ人魚しか生きることが出来ない、別世界だからな。
そしてこの海は〈魔の海域〉と呼ばれるほど、潮の動きが読みにくい。
溺れたり、遭難することなんざ、造作ないって訳だ」
すっかり日も傾き始めた時、エルミアはとぼとぼと森の中を歩いていた。
少しずつ謎が解けてきているのは確実なのに、次から次へと困難が待ち受ける。
「魔の海域、海の滝つぼ。そもそも水中に潜るのに問題が…」
自分が帰るまであと数日しかないのに、どこまで王子の役に立てるのだろう…
リーシャたちは、心配そうな顔をして王宮の門の前でエルミアの帰りを今かと待っていた。
そして森の奥から姿が見えると飛ぶように走り寄った。
「遅かったじゃないですか」
サーシャが心配した声色で言った。
「ごめん」
「ケガはないですか?ドワーフに何かされませんでしたか?」
質問攻めにしてくるサーシャに「大丈夫だよ」と答えながら、宮殿の中へと入って行く。
「王子がお呼びです」
部屋で、外行きの服から着替えるとリーシャが言った。
「分かった…」
エルミアは暗い顔をしたまま、とぼとぼとリーシャの後ろを着いて行った。