蒼月の約束
「大丈夫ですか?」
手つかずのお皿を、見つめたままのエルミアに向かってリーシャが言った。
「…うん」
心配をかけまいと食べ物を口にするが、味が全く分からない。
何を食べたのか、どうやって呑み込んだのか分からぬまま、エルミアは自室へと戻って行った。
「今日はもうお休みください」
明日が蒼月であることを、リーシャたちは知っているようだ。
しかし、それについては何も触れず、エルミアを一人にしておいてくれた。
暗やみの中で、月の光が、窓からエルミアの手元に差し込む。
帰りたい。
早く、家族に会いたい。
そう思っていたはずなのに、王子の言葉で、帰りたくない気持ちの方に大きく天秤が傾いてしまった。
このまま王子やリーシャたちとお別れするのかと思うと胸が切なくて、とうとうせき止めていた思いがあふれ出てしまった。
月明りの中でひたすら静かに泣いた。
私はまだ、帰る気持ちの準備が出来ていないんだ。
この世界を離れる心の準備が…。
エルミアの涙は、月が沈み太陽が昇るまで止まることはなかった。