蒼月の約束
何の進展もつかめぬまま、とうとう時間が来てしまった。
「エルミアさま」
図書館で長いこと時間を過ごしていたらしい。
外に出た時には、すでに暗くなっていた。
エルフ三人に「またね」と、まるであとで会うかのように挨拶をし、その場を離れた。
湿っぽいのが苦手であろう、リーシャたちもいつものように「いってらっしゃいませ」と深くお辞儀をした。
泣いてしまわないように、唇を噛みしめている三人を見ているのが辛くなるので、エルミアはすぐにグウェンの後ろに続いた。
「王子がお待ちです」
神殿の入り口で、グウェンは立ち止まり深く頭を下げた。
「いってらっしゃいませ」
「…ありがとう」
それだけ言うと、エルミアは一段一段、石段を踏みしめて昇り始めた。
ここの世界を忘れないよう。
記憶にとどめておけるよう。
ゆっくりと上っていく。
石柱が目立つ、天井のない開けた場所に出ると、ぽつんと立っている水盆の近くに王子が一人佇んでいた。
蒼い月が、王子を照らし幻想的な空間を作り出す。
ここに今、自分がいること自体が、不思議なんだ。
私は、ここにいるべき人間ではないんだ。
人間とはかけ離れた存在感と、まばゆい美しさを持つエルフの王子を目の前にして、いかにここが自分に適していない居場所であるかを思い知らされる。
吸い寄せられるようにして、エルミアは水盆へと近づいた。
「中を覗いて」
王子が囁くように言い、エルミアは言われた通りつま先を挙げて中をのぞき込む。
蒼い月が水に反射しているだけだと思われたが、水面がゆらりと動き、前回同様、自分の家族が水中に映し出された。
王子は静かに後ろに下がった。