蒼月の約束
つい最近まで、自分がいた場所。
それなのに、こんなにも遠い記憶だと感じてしまうのはなぜだろう。
お父さん、お母さん、そして亜里沙。
亜里沙の隣には、自分じゃない別の私があたかも昔からいたかのように存在している。
「この人は、どうなるの…?」
水面から目を離さずに、エルミアは呟くように聞いた。
「分からない」
王子の声色からして、本当に知らないということが伝わってくる。
運よく自分が向うの世界に戻れたとして、一体どうなるのだろう。
自分が二人になるのだろうか。
それとも、もはや家族の記憶から消えた今の自分自身が他人になってしまうのだろうか。
大きな不安が、エルミアを襲い始める。
「そろそろ、蒼月が真上に来る。始めるぞ」
そう言うと王子は、床に膝をつき、何やら早口で呪文を呟き始めた。
何も変化がないように感じたが、静かだった水面が段々と揺らぎ始めた。
今まで写っていた家族の映像が消えさり、水が勢いをつけて回転していく。
エルミアは思わず、後ずさった。
次第に強まる水の回転速度が上がり、どんどん上昇していく。
そして、前にも見た通り大きな水の柱が出来上がった。
「行くんだ、ミア」
後ろで王子が、静かに言った。
エルミアは、蒼月めがけて立ち上る水柱をただ見つめるばかりだった。
これで、最後。
これで、この世界ともお別れだ。
私は、今まで通りの暮らしに戻るんだ…
エルミアは目を瞑り、一歩前へと進みよった。