蒼月の約束
「ミアさま」
突然名前を呼ばれて、エルミアは「はい!」と返事をした。
「ミアさまには、感謝しています」
グウェンは厳しい表情を崩さないまま言った。
「ただ忘れないでいて頂きたい。王子は、今ではまだ王子ですが、いつかはこの国を担う力をお持ちになる存在です」
「分かってます…」
「勘違いされませぬよう。
王子は、あなたの能力が必要で、側に置いているだけなのです。
王子の近くにいられるのは、それだけの理由だということを肝に銘じておいて下さい」
そう言うと、王子を追いかけるようにさっと出て行った。
部屋に重たい空気が流れた。
…グウェンの言っていることは正しい。
身分をわきまえろ。
勘違いをするな。
王子が優しいのは、私自身を想ってのことではない。
この能力が、この世界を救う手助けをする自分の能力だけが、必要なのだ。
「そんなこと…分かってるよ」
エルミアは苦し紛れに言葉を絞り出した。
分かっているよ。
好きになっちゃいけない相手だってことも。
この気持ちを封印しないといけないってことも、分かってる。
王子が私のことを予言の娘と以外何とも思っていないことに
あの時やっぱり帰っていれば良かったって
後悔する時が来るかもしれないってことも…
全部、分かってる。
それでも、
よくやったと褒めてくれる手や
ありがとうと感謝して抱きしめてくれるとき
怒りながら心配してくれる顔を
思い出しただけで胸がいっぱいになる。
心が満たされる。
今は、やっぱり王子と出来るだけ長く一緒にいたい。
時間が許すだけ、多くの時を過ごしたい。
そう思ってしまうのは、私のワガママかな。
見の程知らずなのかな。
静かに涙を流しているエルミアに歩み寄り、リーシャはエルミアを軽く抱きしめた。
サーシャとナターシャは、この話がされることを予期していたかのように端で静かにしていた。