蒼月の約束

「…何これ」

竜宮の使いを目の前にして、エルミアは目を見開いた。


目の前には、ウナギを両手で挟んで潰したような長細い生き物が二匹、浜辺で待ち受けていた。


「竜宮の使いです!」

呼び出しの口笛が上手くいったのが嬉しいのか、誇らしげにトックは言った。

「…ウミガメじゃないんだ」

(こうべ)を垂らし、悲嘆にくれるエルミア。

「竜宮城へは、カメって相場が決まってるでしょ…」

「何か言いました?」

トックが不思議そうな顔でエルミアを見つめた。

「ううん。こっちの話」


迎えに来たのは、思い描いていた生き物ではなかったが、見慣れてくると美しい生物だと分かった。


全体的に平たくて長く、今までに見たことのない種類の魚ではあるが、体は銀色に輝き、ヒレの一部は鮮やかな赤色をしている。


「さ、お花を食べてください。あとは、この竜宮の使いに乗っていくだけです」

トックに言われて、エルミアは花を口に入れた。

噛んだ瞬間、苦い味が口に広がったが、吐き出す程のまずさでもなかった。


「それでは、時間に気をつけて行ってきてくださいね」

まるで、テーマパークのお兄さんのように爽やかに送り出すトック。


荒波で、真っすぐ立つこともままならない海の中で、竜宮の使いへ恐る恐るまたがる。

さきほどの乗馬のように、後ろにはリーシャがいた。


ずっと不安そうな顔をしている王子を一度見てから、エルミアたちは海の中へと出発した。



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