蒼月の約束
ぐっと歯を食いしばって、呼吸を止め、目をつぶった。
この竜宮タクシーが意外とスピードを出しているせいで、もうあとには戻れないという思いがさらに恐怖心をあおる。
しかし、後ろでリーシャがトントンと背中を叩いた。
「呼吸できますよ」
なんと、会話も出来る。
エルミアは片目を開け、口から息を吸った。
リーシャの言う通り、地上と同じように呼吸が出来る。
「ほんとだ…」
そして声も出せる。
なんとも不思議な感覚だ。
体は水にぬれているのに、服が体に張り付くような不快感はない。
どんどん先へと進むスピードで髪や服が揺れる程度だ。
また、竜宮の使いの乗り心地も悪くはなかった。
さっき乗った馬の背中より安定性はあまりないが、座り心地はいい。
しかし、海中の渦潮を避けるために色んな方向へ進むため、馬の時と同様、竜宮の使いの赤く光るヒレを必死に掴まなければならない。
少し先に巨大な穴が見えてきた。その穴めがけて大量の水が、落ちていく。
「…まさか」
ふと、予言を思い出す。
〈海中に滝つぼがあり、その底に人魚が眠る場所がある〉
「落ちるんじゃ…」
そう呟いた瞬間、体がぐんと前に引っ張られ、文字通り滝へと突っ込んだ。
すでに水中にいるのに、強力な重力には逆らえないほどだ。
必死にヒレに捕まり、体が飛んでいかないように、振り落とされないように踏ん張る。