蒼月の約束
そこでエルミアは我に返った。
「ピンク潮の時に生まれた子です」
人魚は一瞬なんのことだが、分からない顔をした。
しかし、先ほどの派手なピンクの着物を着た女性が乙姫の近くに寄り、小さな声で言った。
「バンシーのことではないでしょうか?」
「ふむ」
「バンシー…?ってどこかで聞いたことあるな」
エルミアが首を傾げると、隣でリーシャが小声で言った。
「いつも泣いている妖精で、その泣き声を聞いたものは死ぬと言われています」
「え…」
顔が固まったのを見て、リーシャはくすりと笑った。
「迷信ですよ。私たちの世界では、よく泣く女の子をバンシーとあだ名で呼ぶことがあります」
赤髪の人魚は困ったように、こちらに向き直った。
「バンシーに会いたいのであれば、わらわは止めないが…」
「話を聞いてくれるかどうかは、約束できぬぞ。ずっと泣いてばかりで、全く会話も出来ておらんからの」
そして、ピンクの女性に言った。
「バンシーのところに案内しておやり」
「こちらです」
そう言って連れて行かれたのは、宴会場から一番離れた場所に位置するこじんまりとした部屋だった。
しかし、なぜかその部屋の床には大きな穴が開いている。
「この下にバンシーはいます」
深く続いている真っ暗い穴を見て、一行は無言になった。
「ここ…ですか」
エルミアが呟くと、女性は呆れたように言った。
「自分で掘ったこの穴の奥で、ここずっと泣いています。
元々変わった子ではいたのですが、最近は地上の者に恋をしたと言い始め、私どもには手に負えなくなっています」
エルフたちの表情が変わったのが分かった。