蒼月の約束
暗闇の底から泣き声が聞こえる。
自分が泳いでいるのか、落ちているのか分からぬまま深く深く下りて行く。
泣き声がどんどん大きくなるにつれて、底が近くなってきたのが分かった。
上を見上げると、部屋の明かりが見えてこないくらい深くまで来ていることに気がついた。
「相当掘ったな、お嬢ちゃんは…」
エルミアは半ば称賛するかのように呟いた。
「誰かいるの?」
足がごつごつとした石床に着いた時、泣き声が止み、鼻声の幼い声がこだました。
真っ暗闇が続いているせいか、どこにいるのか全く見当がつかない。
とりあえず、声のする方へ足を進める。
目が見えないと聴覚が鋭くなるって本当らしい。
「私は、エルミア。話があって来たの」
とりあえず声を出して、自分の存在を驚かさないように主張してみる。
「どうやって来たの?人魚以外、ここには来られないハズだけど」
完全には泣き止んでいない声で言った。
油断すればすぐに大泣きを始めそうだ。
「竜宮の使いにつれて来てもらったんだ」
「正式なルートで来たって訳ね…」
呟くように少女が言った。
「あの…もしよかったら、明かりをつけてくれない?」
するとぼやっと辺りが明るくなり始めた。
暗闇になれていた目が突然の光に慣れてくると、洞窟の中にいるのが分かった。
飛び出したごつごつの岩壁には、いくつもの光が宿り、辺りを照らしてくれている。
そしてエルミアの目線の先には、大きな岩がありその上に手で顔を覆っている青い髪の小さな女の子が座っていた。
下半身はもちろん魚だが、先ほどの女性と違うのは、緑がかったヒレの部分に虹色の光がちらちらと見え隠れすることだ。
「あなたが、ピンク潮の時に生まれたっていう子?」
ほぼ確定で間違いはないのだが、念のため確認してみる。
「ピンク潮…?そうかもね。私は他の子とは違うみたいだから」
未だ手で顔を覆ったまま、人魚の少女は言った。
「お願いがあって来たの」
おそるおそる近づきながら、エルミアは優しく言った。
「お願い?」