蒼月の約束
静かな、午後だ。
森が風を受けてさわさわと音を立て、鳥が楽しそうに鳴く。
自然に囲まれるのはいつぶりだろう。
目をつむると、風の音と、亜里沙が楽しそうに水と遊ぶ音で脳内がいっぱいになる。
東京では当たり前だった頭が痛くなるほどの騒音と、下水臭のない、この空間。
何だろう、この気持ち…
朱音は心の奥から込み上げてくる、幸せを感じていた。
そして、鼻歌を歌いだした。
「昔から、歌だけは上手だよね」
いつの間にか目の前にいた亜里沙が、嬉しそうに言った。
「だけ、は余計」
そう言いながらも、気分がいいので鼻歌を続ける。
「ねえ、お姉ちゃん。水に入らないのって、おばあちゃんの言葉気にしてるから?」
ニヤニヤしながら亜里沙が、水をひっかけてくる。
「べ、別に気にしてないし…」
半分嘘で、半分本気だ。
おばあちゃんの予言が当たったことは、人生において一度もないが、おばあちゃんの放つ言葉にいちいち反応してしまうのは、子供の頃からの抜けない癖だった。
「気持ちいいのに」
気持ち良さそうに泉を歩いている亜里沙を見て、朱音も靴と靴下を脱ぎ、足を水に付けてみる。
ひんやりして気持ちがいい。
まだ夏の暑さが残るので、Tシャツに短パンというラフな格好をしていてもお日様が頭上に来ると暑く感じる。
にもかかわらず、この水は一定の温度なのか、ぬるくはない。
「確かに気持ちいいわ…」
思わず呟くと、亜里沙も「でしょ~」と言いながら浅いところをぱちゃぱちゃと歩きまわっている。
水も風も、太陽も、土の香りも、全てが心地いい。
朱音はまた、目をつむり、今度はうたを歌いだした。
「な、なにあれ!」
突然、亜里沙が大声を出すのを聞き、朱音は歌うのをやめた。