蒼月の約束

「これ、別に持っていてもいいことないし」

「ありがとう!」

これで安心して帰れる!

今戻れば、花の効果もまだ間に合うはず。


こんなにも簡単に事が運ぶとは思ってもいなかったと、心の底から喜んでいるエルミアを見ながら、バンシーは涙目で言った。

「その代わり、あなたは何をくれるの?」

「…え?」

エルミアの顔から笑顔が消えた。

「私が、これをタダであげると思ったの?」

鋭い瞳で、バンシーはエルミアの方へと泳ぎよってきた。

「だって、いらないって…」

その場で硬直しながらエルミアは言った。

「これは私には必要ないものだけど、私にも欲しいものがあるの」

可愛い猫なで声を出しながら、バンシーはエルミアの周りを泳いでいる。

「何かと交換なら、これ、あげてもいいわよ」

「な、なにが欲しいの…?」

バンシーが話すたびに見える牙が、突然怖くなった。

よく見ると、手には白くて長い爪もついている。
まるで、鷹の鉤爪ようだ。
これを見れば、ここまで深く穴を掘ったことにも頷ける。


「そうね。足、が欲しいわ」

鋭い爪で、エルミアの足を触る。

「あ、足!?」

確かに童話の中でも、足が欲しくて魔女のところに行っていたけど、ここでそんなことを言われるとは思いもよらなかった。

「そう、足。足があれば陸に上がれるでしょ?そうすれば、私はあの殿方とお会い出来るのよ。一緒に歩いたりも出来るわ」

嬉しそうに手を叩きながら、バンシーは言った。

「あ、足は、私も使うから…」

怖しさで震える手を握りしめながら、エルミアは小さな声で呟いた。

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