蒼月の約束
「どうして?この鱗が欲しいんじゃないの?足の一つや二つ…」
バンシーの機嫌を損ねたのが分かった。
怒りに体を震わせている。
エルミアは必死に首を横に振った。
「仕方ないわね。じゃあ、声でもいいわ」
「こ、声?」
別の要望もまた恐ろしいものだ。
「私の声、海の中であれば問題ないのだけれど。
陸に上がると金切り声みたいな、地上の者には不快な音になってしまうの。
だからあの日、自分の声で直接、殿方にお礼も言えなかったわ。
それが悔やまれるの」
そして、エルミアに向き直った。
「あなたの声を頂ければ、私はあの方とお話が出来る。どうかしら?」
エルミアは恐怖で思考が停止しそうになっている頭を、フル回転させた。
どうにかこの状況を打破しないと、人魚のペースに呑まれてしまう。
何も言わないエルミアを不信に思ったバンシーが訝し気な顔をして近づいてきた。
エルミアは慌てて言った。
「ちょ、ちょっと、落ち着こう?
よく、考えてみて。急に会いましょうなんて言ったら、向うも驚いちゃうと思わない?
やっぱり、会うとしても、お互いをよく知ってから会うのがいいと思うの。
ほら、急げば回れ、って言うじゃない?
やっぱり、焦って行動するといい方向にはいかないと思うんだよね」
バンシーが黙っていることをいいことにエルミアはまくしたてる。
「だから、ほら、ラブレターから始めるのはどう?
恋文っていうの?
手紙を通してお互いことのことを良く知ってから、会う約束をすれば、驚かなくてすむじゃないかな?
それにほら、そうすれば向こうも解決策を見つけてくれるかもしれないし!」
一気に言い終わってから、エルミアは、さすがに無理があると思った。
手紙交換なんて、今時小学生でもやらないわ…。
最悪、虹色の鱗は諦めて帰るしかない。
運よく、この人魚が生きて帰してくれればだけど…
しかし。