蒼月の約束
「それ、いい!」
突然、バンシーは手を叩いて飛び上がった。
「は?」
予想外の反応にエルミアは目が点になった。
「確かに、地上の者にとって人魚はよく分からない生き物よね。
いきなり会って、もう二度と顔も見たくないって思われたら嫌だもの。
うん、私、恋文から始めることにするわ」
喜々として話す人魚にエルミアは心の底からホッとした。
「あなたを助けたコロボックルと知り合いなの。彼に伝えておくよ」
エルミアが言うと、バンシーは嬉しそうに近づいた。
「本当?じゃあ、助けてもらった場所に置いておくって言ってくれる?」
「うん…」
そう言いかけて突然、呼吸が苦しくなってきたのを感じた。
そろそろ時間切れだ。
しかもこんな海の底の、そのまた底で。
「さ、始めるわよ~。貝殻と、タコの墨を用意しないとね!」
楽しそうに話しているバンシーは、エルミアの肩を掴んで上へと引っ張っていく。
スピードを出しているせいか、あっという間に部屋に着いた。
部屋にはすでに誰もおらず、エルフたちが先にちゃんと帰ったのを見てエルミアは安心した。
しかし、自分の周りの空気が少しずつ薄くなっているのにも気づいていた。
「バンシー。…私、そろそろ」
部屋の中を動き回り、書くものを探していたバンシーはここでやっとエルミアの異変に気がついた。
「嘘、花の効き目が切れ始めたの?困るわ、あなたがいてくれないと」
そう言って、エルミアの腕を掴むと「超特急で行くわ。しっかり捕まって」と言い、もの凄いスピードで屋敷を飛び出した。