蒼月の約束
秋がそろそろ終わろうとしている。

乾いた風が頬をくすぐり、王子と二人きりという空間に耐えられなくなったエルミアは、鼻歌をうたい始めた。


「歌はどこで覚えた?」

突然王子が聞いた。

「覚えるというか、気分がいいと歌っちゃうだけです」

前を見ながらエルミアは、足をぐっと伸ばして言った。

「どんな歌が好きなんだ?」

「比較的なんでも聴きます。でも明るい音楽が好きかな~」

「なぜだ?」

王子の質問は止まらない。

「気分が明るくなるからです。
昔は、甘えん坊で泣き虫の妹をあやす為に歌ってたんですけど、それが段々と自分のストレス発散にもなってて」

エルミアが嬉しそうに話すのを、王子は慈しむような瞳で見つめているが、本人は気づかずに話を続ける。

「でも一番は、お風呂で歌うときが好きかな」

「どうしてだ?」

「音がこだまするでしょ?なんか、自分の歌が上手に聞こえて、気分が良いんだよね。そういうことない?お風呂で歌ったりとかするでしょ?」

「ないな」

王子は首を振った。

「どうして?」

今度はエルミアが質問する番だ。

「我々は、歌をうたう種族ではない。ただ…」

そこで王子は口を濁した。

「あまり覚えていないのだが、昔の文献によると、エルフの中にも音楽と得意とし、歌で生き物を癒す種族がいたようだ」

「なんで今はいないの?」

「それが分からない。いたというのは歴史上確かだと思うのだが、全く記憶にない」

それから、エルミアの方を見た。

「だから、最初お前が歌っているのを聞いて、何かを思い出したかと思ったのだが」

王子の瞳が寂しそうに陰ったのを見て、エルミアは何か言おうと思ったが、グウェンが飲み物と共に戻って来たため、口を閉じた。


< 158 / 316 >

この作品をシェア

pagetop