蒼月の約束
目の前で着々と準備がなされるのを見ながら、エルミアは話題を変えた。
「あのさ。私ももう十分休んだことだし、そろそろ精霊の書の研究に戻りたいのだけど」
そして出されたお茶を一口のんだ。
「それでね、月の廻りを知る者に会いに行きたいの」
王子の瞳が、何かを疑うかのように細められた。
「なんだ?次の蒼月の日を知りたいのか?それなら…」
「ううん。小耳に挟んだんだけど、その人なら精霊召喚の道具について、詳しく知っているって聞いたから」
誰から、とは言わないでおいた。
王子はしばらく考えこんだあと、頷いた。
「分かった。いいだろう。私も会いに行こうと思っていたところだ」
「良かった!」
エルミアの顔が明るくなったのを見て、王子は言った。
「しかし、お前は置いて行く」
「え?」
「お前を連れて行くと、ろくな事がない」
前回の水中で溺れた事件を根に持っているのだろうか。
「でも、私、貢献したよ…」
心外という顔を作りながらエルミアが反論しようとすると王子は、眉をひそめて言った。
「これ以上、お前を危険な目に遭わせたくない。心配する身にもなれ」
結局、王子を説き伏せることは出来ず、次の日の朝早くに、気まぐれに出没するという「月の廻りを知る者」を探しにでかけた。
唯一のエルミアの頼み事、エルフの中でも記憶力抜群のナターシャを連れて行くという約束は守ってくれた。
しかし、未熟なナターシャだけでは心配だと、責任感の塊でもあるリーシャも同行したため、エルミアの側に仕えるために王宮に残ったのは、サーシャだけだった。