蒼月の約束
亜里沙は後ずさりをしながら、朱音の岩場の方へとやってくる。
妹の視線の先を辿ると、先ほどまで、何もなかった泉の真ん中から水の泡がコポコポと噴出している。
そして、それが次第に大きくなりどんどん高く上へと上がっていく。
2人は何が起きているのか分からず、ただその状態を見つめるしかなかった。
水がどんどん一か所に集まりはじめ、泉だった水は一つの大きな柱になっていく。
「何アレ…」
亜里沙が恐怖におののいた顔で呟いた。
「こっち…ありさ、こっち来て。早く!!」
普段なら全くいう事を聞かない亜里沙が、朱音の言葉に従おうとした瞬間、水柱がまるで生き物のように二人に襲い掛かって来た。
亜里沙が悲鳴を上げる。
朱音の頭には、とにかく妹を助けないと、という思いしかなかった。
すぐさま亜里沙の腕を掴み、今来た道を全力で走ろうとする。
しかし、亜里沙の足が水にすくわれ、転んだ。
水柱が二人めがけて襲って来た時、とっさに朱音は亜里沙の前に立ちはだかった。
「お、お姉ちゃん!?」
朱音の体が水柱に吸い込まれていく。
「逃げて、ありさ…」
水に呑み込まれながら必死で朱音は叫んだ。
しかし水柱は、標的は一人で十分とでもいうように、朱音をまるで生き物のように強い力で水中へと引きずり込み、朱音と共にそのまま水の泡となって消えて去った。
「おねえちゃああああん!!」
亜里沙の悲鳴に似た叫び声が、森中にこだました。