蒼月の約束
サーシャはエルミアの一挙一動に目を光らせますと言っていたが、何かと冬支度で忙しいのか、ほとんどの時間をほったらかしにしてくれた。

その為、彼女の目を盗んで外出するのは簡単なことだった。


向かった先は、唯一エルフ以外の友達であるアゥストリの家だ。


「帰らない決心をしたのだな」

エルミアに飲み物を出しながら、アゥストリは言った。

もはや、エルミアが来たところで動じないアゥストリは、残ることをあらかじめ予期していたのかもしれない。


「いつかは、帰るよ。でも今は、この国の手助けを…」

アゥストリの片方の眉が上がり、お前の下心なんざお見通しだと言わんばかりの顔をしたが、そこは無視する。

「それで、今日はどうしたんだ?」

「聞きたいことがあって…」

椅子に座り直し、エルミアは言った。

「エルフは歌をうたわない種族だって聞いたけど…」

「そうだな」

「でも、昔はいたって」

アゥストリは顔をしかめた。

「聞いたことないな。記憶違いじゃないのか?」

テーブルに手をつき、エルミアは言った。

「王子にもその記憶はないんだけど、昔の文献には書いてあったんだって。ちょっと気になって…」

「なるほど。何かありそうだな」

すぐにエルミアの意図に気がついたアゥストリは席を立ち、父親のノートを脇に抱えてすぐ戻って来た。

「書いてあるといいんだが…」

そう呟きながら、ページをさかのぼること数十ページ。

アゥストリが何やら、お父さんが書き残した日記のようなものを見つけた。

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