蒼月の約束
「そう言えば」
そして壁にかかっている動物や、数々の装飾を指さして言った。
「こういうのって自分で作るの?」
よく作業用のエプロンを着ているのは目にしていた。
「ああ。ドワーフは鍛冶を得意とする生き物だからな」
そして誇らしげに付け加えた。
「俺たちに作れないものはない」
「じゃあ、楽器は?」
身を乗り出してエルミアは聞いた。
「楽器だと?」
「そう!エルフはさ、元々音楽が苦手な生き物じゃないでしょ?
私が歌うと、結構みんな喜んでくれるんだよね」
明るい声で言いながら、エルミアは呟くように付け加えた。
「もし私が帰っても、音があれば、私を思い出してくれるかなって」
「音楽を奏でるものは作ったことがないが、まぁやってみよう」
そして、目の前のお酒をぐいっと飲み干した。
「救世主の頼みは、一概には断れんからな」
そう言って、ひげの周りについた水滴を袖で拭った。
「ほれ、暗くなる前に帰れ。お前のことだから、エルフ共に黙って来たんだろう」
エルミアは立ち上がりながら、頬をかいた。
「あれ、気づいてた?」
「感情の起伏が少ないエルフをあれほど境地に立たせるのは、お前だけだぞ、きっと」
そう呆れながらもアゥストリは、森に入るまでエルミアを見送ってくれた。
王宮に到着したエルミアは、こっそりと図書室へ入り、あたかも一日ずっとそこで過ごしていました風を装うことに成功した。
しかし、その日から数日、王子たちが帰って来ることはなかった。