蒼月の約束
お風呂上りの朝食は、王子と一緒に取ることになった。
昨夜よりもだいぶ元気そうな顔をみて、エルミアはホッとした。
とにかく夜のことは黙ってこう。
「昨日は、すまなかった」
王子が開口一番に謝り、エルミアは体が硬直した。
グウェンの前で、一緒のベッドで寝た、などと言ったら何を言われるか分からない。
「流石に疲れた。女王の城に忍び込むとは、やはり無謀だったな」
さらりと王子が恐ろしいことを言った。
思わず口に入っていた飲み物が出そうになる。
「女王の城!?」
咳き込みながらエルミアは聞いた。
「月の廻りを知る者を探している内に、女王の敷地まで行ってしまったんだ。
そこで、女王の部下に見つかり、こちらはフードをかぶっていたからか、正体がばれずに済んだが、城の方まで連行された」
食べ物を優雅に口に運びながら王子は続けた。
「そこで知った。新たな女王が誕生した」
「あ、新しい女王!?」
またもや咳き込む、エルミア。
「顔はよく見えなかったが、まだ幼そうだ。
もう力を失いつつある女王に、利用されている可哀想なエルフだろう」
「…もしかして、昨日言ってた悪いニュースってそれ?」
サーシャが渡してきたナプキンで口を拭きながら、王子を見つめた。
王子は首を横に振った。
「いや。悪いニュースは、我々が思っていた以上に、女王の配下が増え、力を付けつつあることだ。
心を閉ざしたものが、確実に増えつつある。
その者たちが、どんどん女王の元に集まっているんだ」
そして一呼吸置いた。
「もし、戦争なんてことになったら、明らかに数で負けてしまう。
必ず女王より先に、四大精霊を呼び出さねば」
王子の肩にのしかかっている大きな責任が、今エルミアにも感じ取れた。
王が不在の王国を護ることが、王子の役目だ。
それがいかに大きく、負担なのか、頼もしそうに見えて不眠症に悩まされている王子に心が痛む。