蒼月の約束
冬が来た。
エルフの国の冬とは、毎日雪が降ることらしい。
「雪だー!!」
これで何度目の叫び声だろう。
朝目覚めるたびに、雪が降っていることを確認するとエルミアは窓の外に向かって声を張り上げた。
「寒くないですか?」
さらさらとしたパウダースノウが降る外を、窓を全開にして眺めているエルミアに向かってリーシャが聞いた。
「寒いのは嫌だけど、雪、好きなんだよね」
ずっと眺めていても飽きない。
まるで羽毛のようにふわふわと宙を舞う白い雪。
田舎から都会に来て残念だったことの一つに、雪を見る回数が減ったことが挙げられる。
雪の中、外に出ると凍てつく風が顔を刺す。
宮殿内は常に一定の温度に保たれているため、一歩外に出ると一気に温度が変わる。
しかしだからと言って、ずっと中で閉じこもっていようとは思わなかった。
「出かけてくる」
暖炉の側にいたエルミアはすくっと立ち上がり、外出用のマントをクローゼットから取り出した。
「お供します」
リーシャがすかさず後に続いた。
「どこに行かれるんですか?」
「まさか、ドワーフの…」
サーシャが訝し気な顔をするので、エルミアは首を横に振った。
「違うよ。セイレーンのラブレターが気になるから、様子を見に行ってみる」
恋文の案を出してから、しばらく経っている。
生き延びるためのでまかせとはいえ、ほったらかしにしておくもことは出来ない。
それに、トックのいるコロボックルの集落は年中春の気候と言うではないか。
ついでに暖かい太陽でも拝んでこようと思った。