蒼月の約束

「どこへ行く?」

王宮から出て行こうと扉に手をかけた時、後ろから王子とグウェンが声をかけた。


出かけることを言ったら止められるだろうか…

気まずそうにエルミアは言った。

「コロボックルのところへ…」

王子は大きなため息をついたと思ったら「分かった」と意外な反応を示した。

「私の馬を使うといい」

すっかり馬のことを忘れていたエルミアは、顔を輝かせた。

「いいの?」

鞍なしで馬に乗る事が、どんだけ辛いか、エルフたちはきっと分からないだろう。

王子の紋章付きは少しばかし恥ずかしい気もするが、鞍付きの馬を借りられるとは、良い出だしだ。


「乗るコツを教えてやる」

そう言って、王子が真っ先に外へ出た。


「嘘でしょ…」

一瞬の出来事だが、あり得ない光景にエルミアは開いた口が塞がらなかった。

「どうした?」

王子が雪の上から振り返った。

そう、エルミアのふくらはぎの辺りまで積もっている雪の上から。


エルフが体重を感じさせないのは、分かっていたが、雪の上にも乗れてしまうほど軽いとは想像もしていなかった。


何となくこの世界になじんできた自分の体にもエルフのような体質を期待してみるが、案の定、雪をかきわけて進むことになったエルミアは、王子に聞こえない声で呟いた。


「不公平だ…」

雪に埋もれない王子と違って、エルミアはすでに体中が濡れている。


「さっむ…」

体を抱え込みながら、王子の馬が待機している方へと足を向けた。

寒さに強いとされている馬は、綺麗に掃除された馬小屋の前で、静かに王子に撫でられていた。

ちゃんと鞍もついている。


「ミアは大事な人だから、よろしく頼むな」

王子が馬にそう言っているのが聞こえた。

< 169 / 316 >

この作品をシェア

pagetop