蒼月の約束
近くに行くと思っていたより大きい馬を見て、エルミアは途端に不安になった。
「り、リーシャ~…」
辺りを見渡すが、いつも側にいるはずのリーシャがいない。
「問題ない。ナタリーは大人しいから、ミア一人でも乗れる」
王子が、挙動不審なエルミアを見ながらくっくと笑う。
「い、いやでも…」
一人で乗ったことないし
と言う前に王子はエルミアのことをひょいっと持ち上げ、馬の背中に乗せた。
言葉にならなかった。
雪に埋まらないほど軽いくせに、私のことは軽々と持ち上げる。
一体どんな生態をしているの、エルフって!
しかしそんなこと言っている余裕は、手綱を震える手で持っているエルミアにはなかった。
後ろから別の馬に乗って来たリーシャたちが追い付き、一行は出発となった。
「わ、私、操り方知らない…」
怖い、無理と首を横に振りながらエルミアが言うと、王子が馬を撫でながら言った。
「大丈夫。ナタリ―は言葉が分かるから」
そして「行って来い」という言葉を合図に馬たちは走り始めた。
「全然大丈夫じゃないー」
エルミアの言葉は、雪の中に消えた。
「良いんですか?彼女たちだけで行かせて」
四人の後ろ姿を見送っている王子の後ろからグウェンが聞いた。
「王宮にずっといるのは、退屈だろう。今は、休戦状態だ。女王も何もできまい」
「しかし、向こうの勢力はどんどん…」
「まあ、焦るな。オーロラの時期はもうそろそろだ」
そう言ってグウェンの肩をぽんと叩いた。
なぜか楽しそうな顔をしている王子の顔をグウェンは不安げに見つめた。