蒼月の約束
「セイレーンさんも、エルミアさんに会いたいっておっしゃっていました」
慌てて付け加えた。
「手紙の中で、ですが」
「どういう風に交換しているんですか?」
サーシャが楽しそうにエルミアの後ろから顔を覗かせて聞いた。
よっこいしょ、と透き通った白い貝殻を置いてトックは答えた。
「基本的にセイレーンさんは、夜の内に置いて下さるので、ぼくは朝拾いに行きます。
僕の番になったら、波に流されないように夕方に置きに行くんです」
照れたように笑いながらトックは頬をかいた。
「何を書いたらいいのか分からないので、困っちゃいますけど…」
「何でもいいんだよ」
エルミアは貝殻を見つめながら嬉しそうに言った。
「家族のこととか、好きな食べ物とか。最初はそういうのだけで楽しいんだから」
自分はラブレターなんて書いたことないくせに、先輩顔をして説明する。
その様子を真剣に聞いているトックは、まるで学校の模範生徒のようだ。
今にもメモを取り出しそうなトックは、思い出したように自分のポケットを探った。
「忘れていました。セイレーンさんが、次にエルミアさんに会った時に渡すようにと、これを」
そう言って渡されたのは、海の中でも息が出来るというあの花だった。
しかし前回に比べると色が少し違う。
「これ、もっと長く海中にいれるようにと、セイレーンさんが改良したようです」
「凄いお嬢さんね、セイレーンって」
思わず呟くエルミア。
「気に入られているんですよ」
人懐こそうな顔でトックは笑った。
その表情が可愛すぎて、思わずエルミアはトックの頬を突つきたくなるところをグッと堪えた。