蒼月の約束
どれくらい経ったのだろうか…
朱音はまだ落ち続けていた。
あまりに長いこと落ち続けているので、もはや、今の状況に、退屈さえ感じる。
「…これ、いつまで落ちるんだろう」
ずっと変わらない景色。
ずいぶん前から、ずっと遠くの下方から光が見え始めたが、それが一向に近づく気配が感じられない。
息も吸えるし、頭もハッキリしている。
「トイレとか、大丈夫かな…」
あまりのヒマさに、どうでもいいことまで心配しだしてしまう。
心配と言えば、最後に聞いた亜里沙の声が脳裏に焼き付いていた。
「亜里沙…泣いてないかな」
切り替えの早さは、家族一だが、なんだかんだお姉ちゃんっ子で、昔から朱音のあとに付いて回る子だった。
「私がいなくても、大丈夫かな…」
目を閉じると、さっきまでの光景がすぐ浮かぶ。水で無邪気に遊ぶ、大人っぽい体型からは想像もつかないほど甘えんぼうで寂しがりやのただ一人の妹。
その妹を泣き止ます唯一の方法が、歌だ。
昔から、何かあって泣いている妹を、歌をうたって泣き止ませるのが朱里の役目になっていた。
朱里は、目をつむると、先ほど泉で歌ったうたを口ずさみはじめた。
きっと自分がいなくなって泣いているだろう妹に届くようにと…。
その時、足元からぐっと引っ張られるような感覚に陥った。
今までは、優雅にふわふわと漂っていたのに、今度は下の方へとまたもや見えない強い力で引っ張られていく。
そして、さっきまでは何も感じなかった体の周りは、少しずつ温かくなり始め、その温度はどんどん上昇していく。
なんだろう、何だか呼吸もしづらい…。
いや…呼吸が、できない…!!
(く、苦しい…)
今度こそ本当に死ぬ!
目を固くつぶり、見えない水に抵抗しようと必死に体を動かすと、手に何かが当たった。
それが何かは分からないが、とりあえずそれを力の限り引っ張る。
そして、朱音は、勢いよく熱いお湯の中から顔を出した。