蒼月の約束

「なんだ」

何気ない顔で言う王子から一歩下がり、まだ頭が働かないエルミアは言葉を失ったままよろよろと部屋から出て行った。


「王子。一体、どういうおつもりですか?」

グウェンがまだバルコニーにいる王子に歩み寄り、問い詰める。

「私は、ミアが欲しい…」

小さく王子が呟くのを聞いて、グウェンは呆れたようにため息を吐いた。

「王子。エルミアさまだけはいけません。人間なのですよ。いつか自身の世界に帰られる方です。エルフなら、沢山いるではないですか。なぜ、よりによって…」

「私にも分からない」

未だ視線を外に向けたまま、王子は言った。

「手に入らないと思うからこそ、想いが募るのかもしれない」

グウェンはただ黙って首を振っただけだった。





「どうかしたのですか?」

自分の部屋にバタバタと帰って来たエルミアを見て、心配そうにサーシャが聞いた。

「ペガサスの羽根は手に入らなかったのですか?」

真っ青な顔をしているエルミアをリーシャがソファーに連れて行く。

エルミアは首を振るので精一杯だった。

自分でも何が起きているのか分からない。

そして、隣にいたリーシャに抱き付いて泣き始めた。


息の仕方を思い出したら、緊張の糸がほどけ、涙腺も崩壊したようだ。


エルフ三人は、何があったのかと聞きたくても、話せる状況ではないエルミアをとにかく落ち着かせるしかなかった。

その日は、ナターシャが急いで用意した気持ちを落ち着かせるピンクのお茶を飲んで、そのまま眠りについた。



「恋しても無駄。
あんたはいつか、元の世界に帰り
王子はあんたのことなんてすぐ忘れるのだから」


自分にそう怒られている夢を見た。

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