蒼月の約束
「あー!もう、王子が何を考えているのか分からないよー!」
ドワーフ村までの道のり、エルミアは森の中で走りながら叫んだ。
やはり恋の相談相手も、アゥストリしかいない。
「俺にする話か、それ」
大きく蓄えた下がり眉毛の間からのぞく目が、面倒くさいと物語っている。
「お前にくっついているエルフ共がいるだろ」
着けていたエプロンを外し椅子に座った。
エルミアは口を尖らせた。
「サーシャもナターシャも喜んで茶化してくるのが目に見える…」
はあとため息を吐いた。
「王子は私の気持ちも知らずに…」
「言わないと分からないだろうよ、お前の気持ちなど」
いやに的を射た返答をするアゥストリ。
「でも警告されているんだもん。勘違いするなって」
アゥストリの片方の眉がつり上がった。
「王子が言ったのか?」
「違うけど。側近のグウェンが…」
「じゃあ、お前も王子の本当の気持ちは分からないわけだ」
そう言われてしまうと言葉が詰まる。
「分からないから困るんだよ~…」
アゥストリはやれやれと首を振った。
「それはそうと、面白いものを見つけた」
ふと話題を変えたアゥストリが席を立ち、いつもの父親の古いノートを持ってきた。
「お前に聞かれたエルフの歌姫が気になって、もう少し読んでみたんだ」
そう言いながらページをめくっていく。
「すると、なんと名前が見つかったんだ。ほれ、ここ」
アゥストリが誇らしげにその個所を指さした。
エルミアは呆れた目でアゥストリを見つめた。
「あのさ、私が人間ってこと忘れてない?こう見えてドワーフじゃないの、私」
「そうだった。すまんな。いいか。ここに〈エルミア〉と書いてある。お前と同じ名前だ」
「え、そうなの!?」
今自分で言ったばかりなのに、思わず読めない文字がぎっしり書いてあるノートをのぞき込んだ。