蒼月の約束
「もう暗くなる。そろそろ帰った方がいい」
そしてエルミアに向き直った。
「お前も気を付けろ。女王に一度捕まったら、二度とは戻れない」
エルミアは戸口まで歩いて行く。
「分かった、帰る。今日も相談乗ってくれてありがとう。また来るね」
「そうだな。楽器はもう少し時間をくれ」
エルミアが気になっていたことを口にしてくれて、ホッとした。
楽器作りをやってみると約束したことをちゃんと守ってくれるようだ。
「暗くなる前に、宮殿に着くようにしろよ。じゃないと…」
アゥストリが言いかけて、止めた。
不思議そうな顔をしているエルミアの方を見ずに、付け加える。
「お迎えが来たみたいだな」
視線の先を追うと、王子が白い馬でやって来るのが見えた。
そしてドワーフの村の入り口で止まり、そこで待機している。
「じゃあ、俺はここまでだ。またな」
アゥストリは王子には挨拶はせず、エルミアを入り口近くまで送るとすぐに背を向けて帰ってしまった。
エルミアが王子の方に向くと、王子は馬の上から手を差し伸べた。
「…迎えに来てくれてありがとう」
まさか、自分を片手で持ち上げられるとは思っていなかったエルミアは、差し伸べられた手を掴んだ。
ものの一瞬の内に王子の後ろに座っていた。
「…さすがエルフ」
「本当に友達なんだな」
馬を走らせながら、王子が呟くように言った。
「うん…」
王子の背中に掴まり、エルミアはそれだけ答えた。
この瞬間が、とても幸せだった。