蒼月の約束
湯気が立ち込める大きな大理石の浴槽の中に、朱音はいた。
視界はぼやけてよく見えないが、とりあえず自分が生きていることは確認できる。
水を幾分か飲んでしまったせいか、咳が止まらない。
朱音は手を胸元に当て、必死に呼吸を繰り返す。
咳が落ち着き、呼吸が楽になってきた頃、ぼやけていた視界が段々とクリアになってきた。
大勢の足音と、怒ったように叫ぶ声、そして、目の前には裸の男。
「…お、男!?」
朱音は思わず、後ずさった。
そして、自分が先ほど引っ張ったのはその男の腕だったのだと、今もなお掴んでいる自分の手で悟った。
しかし、慌てて離した時には事既に遅し。
大勢の衛兵たちに槍を突き付けられ、自分の立場を瞬時に理解した。
顔から滴るのは、お湯のせいか、いきなり突き付けられた恐怖で流れた自分の汗なのか、分からなかった。