蒼月の約束
身軽でどこまでも目が効くリーシャが、「ありました」と伝えた時には、すでにお日様がてっぺんに上った頃だった。
「すぐです」と言われて、もう何分経ったのだろう。
エルフにとっての「すぐ」は、自分のすぐとは合致しないと心の中で文句を言いながらハイキングをしていると、なんと頂上に着いてしまった。
「うわ~キレイ」
山の上から見下ろす景色に息を飲んだ。
冬が終わり、春が始まろうとしているこの時期。
まだ肌寒さは残っているものの長時間の山登りで、うっすらと汗をかいている。
緑色の芽が地面から少しずつ出ているさまをみると、春の訪れもそろそろだと実感できる。
「こちらです」
リーシャが声をかけ、呼ばれた方へと足を向けると、緩やかな崖に沿った場所に淡い紫色の花がところどころに咲いている。
その野生の花を差しながらリーシャは、崖の上で器用にバランスを取りながら言った。
「あれが、エターナル・フラワーです。季節によって色が変わり、そして毎日キレイな水に取り替えてあげれば、一生枯れないと言われています」
滑り落ちないように、エルミアも必死で踏ん張りながら、リーシャが花を摘んでいる様子を観察する。
丁寧に一つずつ取っているのを見て、エルミアも自分の足元に咲いていたものを一つ摘んでみる。
自分の手のひらサイズもあるお花を違う角度から見てみると、別の色にも見えてくるから不思議だ。
「これくらいで大丈夫でしょうか」
腕に抱える程の花を持って、リーシャが言った。
「そんなに?」
驚いた顔で見つめると、リーシャは頷いた。
「おそらく花束を作りたいのかと。さ、戻りましょうか」
颯爽と歩くリーシャのあとを慌てて、エルミアは着いて行く。