蒼月の約束
「サーシャ、どうなってんの?」
ランチを自室で食べながら、エルミアは言った。
「王子に出くわした時は、本当に焦ったよ…」
話ながらも、パンを口に運ぶ手を休めない。
朝からのハイキングは思った以上にエネルギーを消費したようだ。
目の前に座っているサーシャも、パンを口に頬張りながら尋ねた。
「どうでした?王子の様子は」
「ん~と、質問攻めだったかな。誰にあげるの、とか。本当に自分で取って来たのかって」
サーシャの顔がにんまりするのが分かった。
「いい兆候ですね。あと少しですから、待ってください」
ナターシャもサーシャの隣で楽しそうに耳打ちされたことの段取りを確認している。
「なんか、すでに疲れた~」
ソファーに寄りかかりながら、エルミアは天井を仰いだ。
「ミアさま、食べ終わりましたら、図書館塔の前で待ち合わせでもよろしいですか?」
ふとサーシャが言い、エルミアは頷いた。
「了解」
そしてサーシャとナターシャは部屋から出て行った。
隣で優雅にランチをしていたリーシャは二人がいなくなると見計らって、口を開いた。
「一つだけ、ミアさまにお伝えしておきたいことがあります」
辛そうな口調から、それは良いことではないのはすぐに分かった。
「なに?」
リーシャに向き直って、エルミアは真剣な表情で聞いた。
「いつかは知る時が来るとは思います。しかし念のため、今お伝えしておきます」
そして深呼吸をしてから続けた。
「王子には、婚約者がおりました」
一瞬、体全体がどくんと脈を打った。