蒼月の約束
王位継承者なのであれば、そういう話の一つや二つあってもおかしくはない。
「…その人は今どこに?」
声がかすれる。
聞きたいけど、聞きたくない。
「分からないのです。王子に婚約者がいたという事だけ。どこの誰なのか、おそらく知っているのは、王族の方だけだと思います」
エルミアは黙ったままリーシャを見つめた。
「王が不在の今、その方がどこの誰なのか知る方はいません。王子でさえ、覚えていないのです。真実なのかどうかも不明なのです。ですが、もしこの女王との戦いに終止符が打たたれた時…」
そこでリーシャは言葉を切った。
「婚約者が誰なのか判明する」
続きを受け取ってエルミアは呟いた。
青ざめているエルミアの顔を見て、リーシャは慌てて言った。
「ミアさまを追い詰めようとしている訳ではございません。もし婚約者がハッキリしても、王子がその方を選ぶという保証はないのですから」
「そっか…」
エルミアは膝に置いている手を見つめた。
西の女王との決着がつき、この世界が元通りになった瞬間、私の役目は終わる。
そして、エルフたちは今まで通りの生活になり、私も元の世界に戻る。
王子はその婚約者と結婚するのかな。
この国の為に…。
そう考えるだけで胸が苦しくなった。