蒼月の約束
「おや、それはエターナル・フラワーではないですか?」
サーシャがやりすぎな程の演技で、エルミアの花束を指さした。
「もしかして、私のために?」
エルミアは、手元の花束見てからサーシャが見つめる。
サーシャがウィンクするので、苦笑しながら言った。
「はい、もちろんですわ。テンさまの為に朝早く取りに行ったんですの」
サーシャの演技が迫真ではないにも関わらず、なぜか自分が役者になった気分にさせてくれる。
これもエルフの中で流行っている一種の遊びなのだろうか。
「ああ、なんて素晴らしいお嬢さんだ!」
そう言ってサーシャは、エルミアに抱き付いた。
「ふふ、どういたしまして」
お互いの演技が、あまりにも大根役者すぎてエルミアは笑いが止まらない。
この後リーシャもナターシャも何かしらの役で加わるのだろうか。
楽しみにしている自分がいるのはなぜだろう。
「この気持ちをどう表現したらいいだろう」
花束を大きく掲げてサーシャが言うセリフに、エルミアは大声で笑いださないようにお辞儀を交えて答えた。
「そうですわね。大きなダイアモンドのネックレスが欲しいですわ!」
お金持ちのお嬢様を気取ってみるが、これがエルミアの精一杯だった。
「勿論だとも!すぐに用意をさせよう!」
「嬉しい!」
「ミアさま、ここで抱き着いて下さい」
サーシャが小声でそう言った。
そしてエルミアがサーシャに抱き付こうとした瞬間、後ろから声がした。
「ミア」
エルミアは驚いて振り返った。
リーシャでもナターシャでもなく王子が、この恥ずかしい茶番を見ていたかと思うと、一気に顔が赤くなる。
「お、王子!なんで、ここに…」
「話がある」
そう言って、エルミアの方へツカツカと歩み寄り、サーシャに向かって激しく一睨みするとエルミアの腕をぐっと掴んだ。
「え?王子…」
サーシャの方を見ると、王子に睨まれたことが堪えたのか青い顔で首を振っていた。
「サー…。テンさ…」
「いいから来るんだ」
エルミアは半ば、引きずられるような形で王子の寝室へと入って行った。