蒼月の約束
「あの、グウェンが…」
その名前を出しても意味がないと分かっていても、エルミアはどうにか体をねじり、抜け出そうとする。
しかし、頑張れば頑張るほど、王子の腕に力が入りどんどん行動範囲が狭まっていく。
「ミア、私はお前の気持ちが知りたい」
真剣な瞳で見られると、心を射抜かれたように自分の本当の気持ちを白状してしまいそうになる。
エルミアは首を横に振った。
「だ、ダメなんです。王子には婚約者だって…」
「それは関係ない。私は、お前の気持ちが知りたい」
王子から視線を外したいのに、すぐに捉えて離さない。
「あの、離してくださ…」
「答えるまで離さない」
どちらも一歩も譲らないまま、二人は至近距離で睨みあっていた。
しかし、この空間に耐えられなくなったエルミアは観念したように、目を伏せて言った。
「わ、私は…いつか元の世界に帰るんです。ここで…」
「答えになっていない。真実の薬を飲むか?」
王子が意地悪そうに片方の眉をあげた。
その顔でさえ見惚れるほど美しいから悔しい。
「強力な薬だから、どこまで吐くことになるか、補償はないが」
目を細めてニヤリと笑う。
「今までの人生においての秘密も話してしまうぞ」
「わ、分かりましたよ~」
負けたと言わんばかりのエルミアは、涙半分に言った。
深呼吸し、まっすぐに王子のスカイブルーの瞳を見つめる。
「私は王子が好きです。でも、王子とは身分も人種も違う…」
しかし最後まで言葉を聞かずに王子はまたもやエルミアを強く抱きしめた。
「その言葉が聞きたかった」
その声に安堵が感じられたのは、自分の気のせいだったのだろうか。