蒼月の約束
その夜、一度自分の部屋に戻らせてもらえることになったエルミアは、ソファーに腰かけた。
大事になった気がする・・・。
それからふと思い出し、顔を上げた。
「サーシャ、一体何が起きていたの?」
王子から許しを得たものの、まだ完全には立ち直っていないサーシャは、スカートの裾を掴んで答えた。
「…ミアさま以外には、別人に見えるよう呪文をかけていたんです」
おどおどしているサーシャを手招きし、隣に座らせた。
エルミアが何も言わずしても座るようになったナターシャは、エルミアの前に腰かける。
「サーシャの変身は、この世界一なの」
「ああ、だから王子があいつは誰だって聞いてきたのね…」
リーシャがナターシャの隣に座り、エルミアにお茶を渡す。
「全て上手くいったのでは?」
いつもはクールなリーシャの口元が緩んでいる。
「そうですよ!王子もミアさまと同じ気持ちってことですよね?」
少しずつ元気を取り戻しながらサーシャが言った。
「たぶん…」
思い出しただけでも顔が赤くなる。
「あ~どうしよう。一緒の寝室なんて」
そう言いながら側にあったクッションに顔を埋めた。
「もう予言も聞こえないのに…」
「そうなのですか?」
リーシャが身を乗り出して聞いた。
「…うん。王子に言った方がいいかな」
そう聞いてみたものの、もし予言が聞こえなくなったと言ったらどんなにがっかりされるだろうと不安になった。
「確か、次は春一番が吹くころでしたよね?」
サーシャが腕を組みながら言った。
暗記の得意なナターシャが頷いた。
「春一番が吹くころに花を咲かせ、たった1週間の命。氷の洞窟の奥深く」
「その風が吹く時も、トックが分かるかな?」
もう予言に頼らなくても解決する道があればいいと切実に願うエルミア。
「聞いてみる価値はありますね」
リーシャがそう言い、エルミアは腕を組んだ。
「でもまずは、その洞窟がどこにあるか、探さないと」
「いいえ、ミアさま」
リーシャが首を振り、サーシャとナターシャが同時に嬉しそうににやりと笑った。
「まずは、お休みの時間です」