蒼月の約束

結局エルミアがうとうとし始めたのは、外が明るくなり始めてからだった。


自分が起きているのか眠っているのか分からない感覚のところで、エルミアはどこからか微かな泣き声が聞こえてくるのに気づいた。

無意識に手を伸ばして、泣いている子を探そうとする。

どこか聞き覚えのある泣き声は遠くに聞こえたまま、エルミアは「誰なの…?」と声をかけようとした。

その時、頭の中で突然声が、大きな鐘のように響いた。


―お姉ちゃん!―




エルミアはハッと目を覚ました。

心臓が早鐘のように打っている。

未だに耳の中でこだましている「お姉ちゃん」と叫ぶ知らない声。


「…誰?」

布団の中で、思わず呟くエルミア。


しかしどんなに記憶を呼び起こそうと頑張ってみても、声の主はおろか、今見ていただろう夢を思い出すことは出来なかった。


「大丈夫か?」

そう上から声をかけられて、エルミアは自分が今どこにいるのか一瞬分からなくなった。

目の前にある何かを両手で強く掴んでいる。

顔を上げると、太陽に照らされて光り輝く金髪が眩しい王子が、スカイブルーの瞳で優しく見つめていた。

白く透き通った肌がのぞくローブを自分が掴んでいるのに気づき、エルミアは慌てて手を離した。

「ごごごめんなさい!」

セーフ、セーフ!
かろうじて肌には触っておりません!


「うなされていたが?」

服の乱れなど全く気にした様子のない王子が尋ねる。

エルミアは寝起きにいきなり大仕事を任された心臓が悲鳴を上げているのを隠そうと、ベッドに半分もぐりこんだ。

「だ、大丈夫…」

布団の下からもごもごと言う。

「よく眠れたか?」

ふっと笑いながら王子がエルミアの頭を撫でる。

「もう昼過ぎだが」

「え!」

いつの間にそんなに眠っていたのだろう。

エルミアはガバッと体を起こし、王子の方をなるべく見ないようにしながらベッドから出ようとする。

ふと腕を掴まれ、引き戻されたかと思うと押し倒されていた。

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