蒼月の約束

「急ぐことが?」

エルミアの上から、ゆったりした口調で王子は聞いた。

王子のシルクのような金髪が流れ、エルミアの顔に触れる。

冷や汗が出るのがわかった。

「い、急ぎます!だって、ほら、あの、今日はトックに会いに行こうと…」

「なんのために?」

王子の長い指が、エルミアの顎に、そして唇に触れる。

エルミアは体を硬直させた。

これはアウトー!
グウェンに殺される!

しかしエルミアの喉から絞り出された言葉は、聞き取れないほどに小さかった。

「離して・・・」

汗だくになって必死に逃げようとするエルミアに、気づかないふりをして遊んでいる王子は、新しいおもちゃを得た子供のようだ。

「やっと思いが通じたのに?」

そう言いながらエルミアの額に優しくキスをする。

一気に甘美な香りが漂い、酔いそうになる。

自分を自制しようとエルミアは抵抗する。

「グウェンが・・・」

なんとか手で王子の胸を押して見るが、びくともしない。

「これで抵抗しているつもりなのか?」

その手を掴み、意地悪そうに片眉をあげて笑う。

余裕の表情で、今度は瞼にまた軽くキスを落とす。

「王子~・・・」

「ミア。私のことは好きか?」

「あの、昨日言った・・・」

しどろもどろになりながらエルミアは半泣き状態で答える。

今にも心臓が爆発しそうだ。

「もう一度聞きたい」

意地悪な顔をする王子。

「言わないと・・・」

突然、エルミアの唇にキスする。

「言わないつもりか?」

驚きで涙目のエルミアの顔を、面白そうに眺めながら王子が言う。

「足りないようだ」

王子がまた迫る。

「はいいい!好きです!王子が好きです~」

王子の色香とグウェンに殺されるううう!

満足そうな王子は、エルミアの頭をぽんと叩いた。

「それでよし」

安心したのもつかの間、今度は王子のたくましい腕がエルミアの腰に回される。

「ちょ・・・」

「ん?なんだ?」

愉快そうに笑う王子。

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