蒼月の約束
「今日はどうしたの?」

エルミアは話がしやすいように、トックの前に膝を付いた。

「エルミアさまにお願いがあって来ました」

不安げな表情をしてエルミアを見つめるトック。

「セイレーンさまの様子を見に行って頂きたいのです」

「セイレーンがどうかしたの?」

二人が何の話しているのか気になったエルフたちが、音を立てずに二人の周りを囲んでいた。

「最近、手紙が届かなくなってしまったのです」

「忙しい、とかではなく?」

サーシャが聞いた。

トックはサーシャを見上げて首を振った。

「分かりませんが、今までこれほど長い期間、手紙が止まったことがないのです。竜宮城が忙しい時であっても、それを手紙に綴っていました」

それからまたエルミアの方を向いた。

「嫌な予感がするのです。先日、僕たちのところに、エルミアさまと同様精霊の道具を探しているというエルフがいらっしゃいました」

その場にいた全員が息を飲んだ。

「何を聞いて来た?」

王子が聞いた。

「セイレーンさまの居場所と、春一番が吹く時期です」

エルフたちが顔を見合わせるのが分かった。エルミアはトックに詰め寄った。

「それでなんて答えたの?」

その場の空気を読んだのか、トックも青ざめながら言った。

「そのエルフが悪いやつだと思わなかったので、セイレーンの場所を教えてしまいました。そもそも、男子禁制の竜宮城ですし、行けないと思ったのです」

「春一番に関しては?」

グウェンが厳しい声で言った。

その迫力に押されてトックは今にも泣きそうだ。

「言っていません。春一番はきまぐれなので、時期が近づかないと僕たちにも分からないのです」

エルミアは険悪な表情のグウェンを背中に隠すようにして、トックに向き直った。

「今は分かる?」

エルミアの穏やかな物言いに、少し気を許してトックは頷いた。

「はい。今日から三日後です」

「三日後…」

後ろでリーシャが小さく呟いた。

「ありがとう。私もセイレーンの様子が気になるから、見に行くね」

トックを安心させるように笑うエルミア。

「明日行くから、また竜宮の使いを呼んでもらってもいいかな?」

トックは背筋を伸ばして頷いた。

「はい!エルミアさま、ありがとうございます!」

明日お待ちしておりますと言って、トックは巨大な鷲の背中に乗って帰って行った。



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