蒼月の約束
その場には張り詰めた空気が漂っていた。
「女王が動き出したか…」
王子が小さく呟いた。
「セイレーンの様子が気になりますね」
サーシャがエルミアの方を見ながら言った。
エルミアは頷いた。
「無事だといいけど…」
「しかし、春一番が三日後だとすると、早めに出発した方がいいのでは?」
リーシャが王子に向き直った。
「冬の山に到着するのに、一日はかかります。そのあとその山を登ることを考えたら早めに…」
王子は何やら考え込み、エルミアの方を一度見てから言った。
「まずはセイレーンだ」
セイレーンの様子を見に行くと決めたものの、前回のことをまだ忘れられないエルフたちはエルミアが竜宮城に行くのを躊躇していた。
トックが時間通りに竜宮の使いを呼んでくれたおかげで、エルミアたちが海岸に到着した頃にはすでに2匹とも待機していた。
「大丈夫!」
心配そうな王子の方を向いてエルミアは元気に言った。
「セイレーンが前より水中にいられる時間を伸ばしてくれたし」
そう言いながらポケットから、小さな花を取り出しリーシャ達に配る。
「様子を見たら、すぐに帰ってくるから」
「次は勝手な真似は許さないからな」
眉をひそめ、厳しい顔で王子は言った。エルミアは頷いた。
「今度こそは絶対お傍を離れません」
隣にぴったりとくっついているリーシャが約束した。
「頼んだぞ」
王子のその声を合図に、エルミアとエルフ三人は竜宮の使いに乗り、海中へと繰り出した。